始めようDTM 第2回 MIDIとはなんぞや? 九曜 弘次郎 Homepage=http://member.nifty.ne.jp/KUYO/ e-mail:kojiro.kuyo@nifty.ne.jp  前回はパソコンと音楽の関係を書きました。今回からいよいよMIDIのお話をし ていきたいと思います。  ところでコンピューターミュージックをやろうとすると、よく「MIDI」という 言葉が出てきます。またシンセサイザーはもちろんのこと、最近のキーボードや 電子オルガンなどの電子楽器にも「MIDI端子」と呼ばれる差込が付いているもの があります。今回はそもそもこのMIDIとはいったいなんなのか、そしてMIDI端子 とはいったいなにをするものなのかということを書きたいと思います。  まずMIDIとは「Musical Instrument Digital Interface」という英語の頭文字 をくっつけた言葉で「ミディ」と発音します。その意味はちょっと難しく言うと 「電子音楽の情報を送る方法を世界的に統一した国際規格」ということになりま す。  なんかいきなり難しくなってきちゃいましたよね。これでは何のことやらさっ ぱり分からないと思いますので、まずはMIDIができた理由から書きたいと思いま す。  例えば音楽を演奏する場合を考えてみてください。 楽器を1人で演奏するよ り、何人かが集まって合奏したほうが、演奏にも広がりができますし、また楽し いですよね。1人で2つ以上の楽器を同時に演奏できたりすると、これはもっと スゴイ!!というわけで、シンセサイザーなどの電子楽器が世の中にひろまって くると、当然、複数の楽器をつないで鳴らしたいとか、自動演奏はできないかな どという要望が出てきたのでした。  そして、その要望に応えるために、それぞれの電子楽器メーカーが、音の情報 を信号にして楽器から楽器へ送る方法を考え出したのですが、ちょっと困ったこ とがおきました。メーカーごとにその方式が違うために、別のメーカーのものを つないで使うことができなかったのです。たとえば、メーカーの違うテレビとビ デオが接続できないようなものだったのです。これでは不便でしかたがないとい うことで、主な電子楽器メーカーが話し合いをして、世界中のどの製品でも組み 合わせて使えるようにするために、信号の送り方や端子の形などのきまりを世界 共通にしようじゃないかということになったのです。  それで1983年に、先ほど書いた「Musical Instrument Digital Interface」と いう国際規格。つまりMIDIとは、電子楽器と電子楽器をつなぐ世界共通の方式、 いわば電子音楽の世界共通の言葉のようなものなのです。  これで少しはおわかりいただけたでしょうか。ではMIDIではどんな情報がやり 取りされているのか少しつかんでいただくために、ここで一つ実験をしてみたい と思います。 この実験はMIDI端子がついた電子楽器が2台ないとできませんの で、みなさんは内容を想像しながらこれを読んでください。なおシンセサイザー という言葉は長いので、以下「シンセ」と略させていただきます。またMIDI対応 の楽器を「シンセ」と呼んだり単に「楽器」と書くこともありますので、ご了承 ください。  まずここにAとBという2台のシンセがあります。Aのシンセの「MIDI OUT」 と 書かれた端子と、 Bのシンセの 「MIDI IN」と書かれた端子をケーブルで接続し ます。そしてAのシンセの鍵盤を押してみます。すると当然Aのシンセから音がな るのですが、同時にBのシンセからも音がなるのです。  「そんなの当たり前じゃないか。うちのオーディオだってなぁ、CDプレイヤー とラジカセを繋いでやれば、ラジカセから音がなるぞ!!」  たしかにこれとよく似ているのですが、実はちょっと違います。CDプレイヤー とラジカセの場合は、 CDプレイヤーからの音がそのままラジカセからなります が、 さきほどの実験のAとBのシンセをケーブルで繋いだ実験では、実はBのシン セからは、Bのシンセそのものの音が出るのです。  なぜこうなるのかといいますと、例えばAのシンセの真ん中の「ド」 の音野鍵 盤を押すと、 AのシンセのMIDI OUTと書かれた端子からは「ドの鍵盤が押されま したよ」という情報が出力されるのです。そしてその情報がBのシンセのMIDI IN に入ると、Bのシンセは受け取った情報と同じような動作をするのです。つまりA のシンセの「ど」の鍵盤を押すことで、Bのシンセの「ど」 の鍵盤も一緒に押し たのと同じことになるのです。  つまりCDプレイヤーとラジカセの場合は音そのもの、つまり音声信号がやり取 りされるのですが、MIDIの場合は音そのものではなくて、演奏情報がやり取りさ れるのです。この演奏情報にはさきほど書いたどこどこの鍵盤が押されたという 情報の他、その鍵盤がどのくらいの強さで押されたのか、またその鍵盤をはなす と「鍵盤がはなされた」という情報、さらにはこれらの演奏した情報だけではな く、シンセの音色(ねいろ)を変えると、音色が変えられたという情報、そのほ かシンセをコントロールするための情報など、実にさまざまな情報がやり取りさ れています。ただし全部のMIDI対応電子楽器が、全部のMIDI情報を送受信できる わけではありません。これはそれぞれの電子楽器の性能などによって違ってきま す。 例えば同じ日本人であっても、 子供と大人では理解できる言葉には差があ り、子供では難しい言葉は理解できない場合がありますよね。また仲間内だけで 使われている言葉は、それ以外の人には理解できないものもあります。MIDIでも それと同じことで、鍵盤の押した強さを認識できないシンセに、いくら鍵盤の強 さの情報を送っても音の大きさは変わらないわけです。  さて話しが少し前後しますが、MIDI端子には機能の違いにより「IN」 「OUT」 「THRU」という三つの種類の端子があります。  まず「IN(イン)」は、送られてきたMIDI情報を受け取るための端子です。さ きほどの実験の例では、BのシンセのMIDI IN端子にAからの情報を入れました。 つまりこれはBのシンセのMIDI INの端子で、Aのシンセからの情報を受け取って いるわけです。  つぎの「OUT(アウト)」は、その楽器の情報を出力するための端子です。 さ きほどの例ではAのシンセのOUT端子に繋いで、情報を送りだしていました。  さて最後の「THRU(スルー)」ですが、この端子はINから入った情報を、その まま出力する端子です。と書いても分かりにくいかもしれませんので、さきほど の実験の続きとして、もう1台、Cという3台目のシンセを用意します。 そして さきほどのBのシンセの「THRU」と書かれた端子と、Cのシンセの「IN」と書かれ た端子をケーブルで繋ぎます。  ではここで、さきほどと同じように、Aのシンセを弾いてみましょう。 すると ………、 さきほどと同じようにAとBのシンセがなるのはもちろんのこと、Cのシ ンセも同じように音がなるのです。 つまりこれは、 AからのMIDI信号がBのMIDI INに入り、それがそのままBのTHRU端子から出力され、Cに行ったわけです。  この原理を利用すれば、さらにD、 E、 F…などと、 10台でも50台でも、 100台でもどんどん繋いでいける………と思われるでしょうが、実はそうは単 純にはいかないのです。 実はMIDIの情報が、 INから入ってTHRUに出ていくのに は、若干時間がかかります。2台や3台ぐらい接続したぐらいでは、それほど影 響がないのですが、これが何十台ともなると、その時間差が大きく影響してきま す。ですからあとの方に繋いだシンセが遅れてなったりしてしまいます。音楽で 楽器が遅れてなってしまっては困ります。  またもう一つの理由として、さきほど書いたように、MIDIでは実にたくさんの 情報をやり取りしているため、外部の機器からの雑音などの影響を非常に受けや すいのです。ですからあとの方に繋いだシンセがならなかったり、また音がなり っぱなしになってしまったりといったことが起きます。  このような理由から、MIDIケーブルは短ければ短いほどよく、 全部で5メート ル以内にしておいた方がいいと言われています。 また接続には可能な限り短い MIDIケーブルを使用し、接続する楽器は2〜3台ぐらいにしておいた方がいいと 思います。 どうしても何台もの楽器を繋ぎたい場合は、 一つの楽器のMIDI信号 を、複数の楽器に振り分ける箱形の機械が売られていますので、そういったもの を使用された方がいいでしょう。  ところでこのMIDIの情報を記録したり、再生したり、楽譜データとして入力し たデータをMIDIの情報にして再生してくれる機械があります。これを「シーケン サー」と呼びます。例えば、シンセのMIDI OUTと、シーケンサーのMIDI INを、 シーケンサーのMIDI OUTと、シンセのMIDI INをそれぞれ繋ぎます。そしてシー ケンサーを録音状態にして、シンセを演奏します。するとシーケンサーのなかに は、シンセで演奏した情報、つまりシンセのMIDI OUTから出力された情報が、シ ーケンサーのMIDI INに送られて、 シーケンサーはその情報を記憶するわけで す。 そしてこんどはそれを終了して、 こんどはシーケンサーを再生状態にしま す。 するとこんどはシンセから、 さきほど演奏したものが自動的に流れてきま す。これはシーケンサーでさきほど記憶しておいた情報が、シーケンサーのMIDI OUTから送信され、それをシンセのMIDI INに送られ、シンセがなっているわけで す。これがいわばよく行われているシンセの自動演奏の仕組みなのです。つまり シーケンサーというのは、自動演奏装置ということになります。  またMIDIでは、例えば最初にピアノパートを入力し、そのつぎのところにギタ ーパートを入力し、つぎにベースパートを入力する………という風に、複数の楽 器のパートを入力しておくと、それをミックスして再生させることも可能です。 つまりMIDIを使えば、一人でアンサンブルのようなことができるわけです。  またシーケンサーには、MIDIで受け取った情報を流すだけではなく、その情報 を楽譜でディスプレイに表示してくれるものもあります。これが「弾けば楽譜に なる」などと言われている仕組みです。そのほかシーケンサーに楽譜のデータを 入れてやると、それをMIDIの情報にして送ってくれる機能もあります。つまり楽 器が演奏できなくても、楽譜データを入力してやることで、シンセに自動演奏さ せることができるわけですね。  MIDIというものがあるおかげで、一人で複数台のシンセを同時にならせる、 楽器が弾けなくても演奏できる、また楽譜が書けない人でも演奏することで楽譜 が書けてしまう、さらにたくさんのパートを入力して自動演奏させることで、一 人でアンサンブルのようなことができてしまうといったすばらしい可能性が生ま れたわけです。  ところでシーケンサーは実はコンピューターなのです。文章を書くための専用 のコンピューターをワープロといいますが、シーケンサーは音楽専用のコンピュ ータといったところでしょうか。  そしてパソコンにワープロソフトを入れればパソコンがワープロに変身しま す。だとすれば、同じようにパソコンをシーケンサーに返信できるソフトがあれ ば、パソコンをシーケンサーがわりに使えるのではないかということは、みなさ んも想像できると思います。そしてこのようなソフトがちゃんと存在し、このよ うなソフトを「シーケンスソフト」と呼びます。MIDIがあるおかげで、シンセと パソコンまで繋げるようになったわけですね。  今回はMIDIとはなんなのか、そしてそれがどのようにパソコンに応用されてい るのかを書きました。  次回はDTMを始めるにはなにを用意すればいいのかについて書きたいと思いま す。